アートコードデザインラボ

コードで思考を形にする:デザイン思考を活かしたインタラクティブアート制作プロセス

Tags: デザイン思考, クリエイティブコーディング, インタラクティブアート, p5.js, 制作プロセス

デジタルアートやUI/UXデザインに携わる皆様の中には、既存のツールでは表現しきれない、より複雑で動的な表現を自力で生み出したいと考えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。また、デザイン思考を体系的に学び、創造的な問題解決能力を高めたいという思いもあるかもしれません。

本記事では、アーティストがプログラミングスキルを活かし、さらに一歩進んだクリエイティブ活動を行うための強力なフレームワークとして、「デザイン思考」をクリエイティブコーディングにどのように適用できるかを探求します。単にツールを使いこなすだけでなく、コードを用いて思考を形にし、観る者の心を動かすインタラクティブな体験をデザインするプロセスを具体的に解説します。

デザイン思考とは何か:アーティストに求められる理由

デザイン思考は、ユーザー(または鑑賞者)の視点に立ち、課題を深く理解し、革新的な解決策を生み出すためのアプローチです。一般的には、以下の5つのフェーズから構成されます。

  1. 共感 (Empathize): ユーザーのニーズや感情、行動を深く理解します。
  2. 定義 (Define): 収集した情報から、解決すべき本質的な課題を明確にします。
  3. 発想 (Ideate): 定義された課題に対し、多様なアイデアを自由に生み出します。
  4. プロトタイプ (Prototype): アイデアを具体的な形にし、検証可能なものを作成します。
  5. テスト (Test): プロトタイプをユーザーに試してもらい、フィードバックを得て改善します。

アーティストやデザイナーにとって、このデザイン思考は、単なる問題解決の枠を超え、作品のコンセプトメイキングから、鑑賞者とのインタラクション設計、そして具現化までの全プロセスにおいて、より深い洞察と効果的なアプローチをもたらします。ツールに依存しない、コードベースでの表現を追求する際、デザイン思考は単なる技術的な実装を超えた、作品の「意味」と「体験」を形作る羅針盤となるでしょう。

デザイン思考フェーズとクリエイティブコーディングの接続

次に、各デザイン思考フェーズにおいて、クリエイティブコーディングがどのようにその力を発揮し、既存のデザインスキルと連携できるかを見ていきましょう。

1. 共感 (Empathize):鑑賞者体験の深掘り

クリエイティブコーディングを用いた作品制作においても、鑑賞者がどのような体験を求めているのか、何に感動し、どのように反応するのかを理解することは非常に重要です。

2. 定義 (Define):作品の核となる課題と目標の明確化

共感フェーズで得られた洞察に基づき、「何を表現したいのか」「鑑賞者にどのような感情や行動を促したいのか」といった作品の核となる課題や目標を明確にします。

3. 発想 (Ideate):多様なアイデアの創出と視覚化

定義された課題に対し、既存の概念にとらわれずに、自由な発想で多様なアイデアを生み出します。クリエイティブコーディングの文脈では、プログラミングが可能にする新たな表現方法を意識することが重要です。

4. プロトタイプ (Prototype):コードによる素早い具現化

発想フェーズで生まれたアイデアの中から、最も有望なものを選び、具体的な形にしていきます。ここでクリエイティブコーディングの迅速なプロトタイピング能力が真価を発揮します。既存のデザインツールでは困難な、動的でインタラクティブな要素を素早く試作し、検証できます。

5. テスト (Test):フィードバックと反復改善

作成したプロトタイプを、ターゲットとなる鑑賞者や同僚に試してもらい、フィードバックを収集します。このフィードバックを元に、作品を改善し、より良い体験を目指して反復的に開発を進めます。

ツールとコードの連携による表現の拡張

デザイン思考のフレームワークに沿って作品を制作する中で、Figmaでインタラクションの全体フローや視覚的な構成を練り上げ、その後、p5.jsやopenFrameworksといったクリエイティブコーディング環境で、そのアイデアを動的で複雑な表現として具体化するという連携が非常に有効です。

既存のデザインツールが提供する「WHAT(何をデザインするか)」という静的な表現の限界を超え、プログラミングは「HOW(どのように動くか、どうインタラクトするか)」という動的でインタラクティブな表現の可能性を無限に広げます。

結論

デザイン思考とクリエイティブコーディングの融合は、アーティストやデザイナーが「ツール依存」から脱却し、より深く、より創造的な表現を自らの手で生み出すための強力な道筋を示します。共感からテストまでのプロセスを体系的に踏むことで、単なる美しいビジュアルだけでなく、鑑賞者の心に響く、意味と体験に満ちたインタラクティブアートを制作することが可能になります。

コードは単なる記述言語ではなく、思考を形にし、アイデアを具現化する創造的な媒体です。ぜひ本記事で紹介したアプローチを参考に、ご自身のクリエイティブ活動にデザイン思考とプログラミングの力を取り入れ、新たな表現の地平を切り拓いてください。